99.5.27●第4期映像実践講座第3回●
リアリティとは何か
荒井晴彦氏の「シナリオ入門」
1本1本に「愛の罵倒」
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写真=シナリオ・ワークショップだけの受講生も加わり、あふれる会場
にいがた映画塾の「第四期映像実践講座」第3回は5月23日、新潟市万代市民会館にシナリオライターの荒井晴彦氏を招き「シナリオ入門」を行った。荒井氏は、前回の16日に受講生から提出された短編のシナリオを基に講評した。ほとんどの受講生はシナリオを書くのは初めて。試行錯誤しながら書かれた23本のシナリオを前に荒井氏は「よく書いたなと感心する」と言いながらも、1本1本に対して「普通やるか、こんなこと」「知らないことは書かないように」「ご都合主義だね」など次々と"愛の罵倒"。受講生は、自分の書いた世界がいかに独りよがりで、リアリティに欠けているかを実感したようだ。最後に荒井氏は「基本的な書き方として映画に映らないこと、見えないことは書かない。でもシナリオとは見えないものを書くこと。それは人間の心です」と結んだ。この日は7月10日まで毎週土曜日行う「シナリオ・ワークショップ」の開講日も兼ねたため、会場は40人近い受講生であふれた。
荒井氏は冒頭「映画は役者とカメラがあればバカでも撮れるが、シナリオはバカでは書けない。そのことを後でとことん話してみたい」と不気味なセリフを残し退席。ほかの受講生のシナリオも読むようにと、数人ごとのグループの前に全シナリオのコピーが積まれた。
「他人の書いたシナリオを読むことは勉強になる」。最初に主任講師のナシモトタオ氏が説明した言葉を受講生は実感したようだ。半面、お互いにシナリオについて話し合う姿が見られなかったのは残念だった。
写真=穏やかな表情と反対に、厳しく講評する荒井晴彦氏
2時間半後、荒井氏による講評が始まった。今回の課題は「飲食店でケンカしている男女」。荒井氏はおだやかな表情ながらも、各シナリオの作者に次々と鋭い質問をし「リアリティに欠ける」と指摘する。「2年も付き合った男女なら、好きな食べ物を男が最後まで残すぐらい分かるだろう」「この23歳の商売女は女子高生の格好をしているけど、店に入るまで男が気付かないことがあるだろうか。本物の商売女って見たことないでしょう。知らないことは書かない方がいい」…。
質問に対して、受講生からは「本当はこういう意味なんですけど」とか「長編の作品の一場面なので」というような「言い訳」が口を突いて出る。しかし、その言い訳の内容こそが他人に伝わっていないことであり、頭の中で都合よくつくりあげた話なのだ。長編でも課題の20枚(200字用紙)の中に全体像を浮かび上がらせなければ意味がない。まさに「言い訳」から映画の勉強は出発する。
荒井氏の言いたかったことは、「リアリズム」(写実性)を書けという意味ではなく、自分の伝えたいことを映画にするには、物語の中に息づく「リアリティ」(現実性)がなければならないということではないか。例えば小説の中で「普通はありえないだろう」という話なのに「それもありかもしれない」と納得することがあるように。
ヤクザの世界やファンタジーを描いた話もあった。荒井氏は「つまらないVシネマのようなことを考えてもしょうがない。プロでもっとうまく書ける人はいっぱいいる。擦れたプロでないような、もっと自分にとって身近な世界を書いてほしい」と注文した。
荒井氏は「『猫背の女性がうつむき加減で、なおかつ神妙な顔つき』が見えるだろうか。人の動きの描写は自分でやってみることが大事」「書きたい場所は、イメージを膨らませるためにロケハンしてみること」などもアドバイスした。
また、ト書きは必要最小限のことを書くように指導。「お店の細かいディティールは、物語に関わりがあれば書いてもいいが、お店の案内じゃないんだから、詳しく書かなくてもいい。もっと本筋の話で書くことがいっぱいあるはず」「『すみません』と謝る−というのは表現のダブリ。ダブリは極力避けて」「『涙が止まらない』のは映画に映るが、『途方に暮れる』なんて映らない。映らないことを書いてもしょうがない。感情はセリフで勝負しましょう」などと話した。
リアリティを持った設定やセリフで簡潔に書く。書かれた内容には「人間の心」がなければならない―。厳しくも愛情を持った荒井氏の講評で、受講生はシナリオの「基本」を強烈に自分の中に叩き込んだに違いない。
16日の青山真治氏の講義では、自分のシナリオについて「題材は現実に起こった出来事がヒントになる。それを映画でしか起こらないこと、映画でしか表現できないことを念頭に膨らませて、言葉に下ろしてみる」と話した。青山氏と荒井氏は、アプローチこそ違うが「自分の中の思いを『もう一つの現実』として再構築する作業がシナリオであり、映画をつくることだ」という意味で一致している。
なお、ほとんどすべてのシナリオで誤字脱字が見られた。人に見せる以上、辞書はきちんと引く習慣は付けたいものだ。
(レポーター・坂井勇介、星龍雄)
参考:シナリオ専門用語 ダイアローグ(英dialogue:相手との対話の形のせりふ)
モノローグ(英monologue:登場人物が心中の思いなどをしゃべるせりふ)
ト書き(せりふに添えて演技、演出、舞台装置などの説明を書き示したもの)
ロケハン(ロケーション・ハンティングの略。シナリオや映画撮影の舞台となる場所を実際に訪ねること、あるいは探すこと)
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(受講生敬称略)
ドラキュラ荒井さん
○…「荒井さんは午前中は全く役に立たない」がスタッフ間の通説。いつも鳥の鳴き声が聞こえるまで飲んでいるからだ。少なくとも新潟では。シナリオ・ワークショップでは「起こし隊」が組織され講義当日、ホテルに突撃した。そのせいもあってか、荒井氏は無事到着。午後5時を過ぎたあたりからようやくエンジンがかかった。その晩はまた午前4時まで盛り上がった。
もう一つの定説。荒井氏はよっぽど新潟が気に入られたのか、来ると必ず2、3日は滞在される。招いた側がホテル代が払えなくなっても、映画塾事務所で寝ている姿を何人かは目撃しているはずだ。
もしかしたら4期スタッフ会議の火曜日もいるかも! と期待したが荒井氏は講義の翌日午後には帰宅。ちょっぴり残念。本町で魚のノドグロとヤナギガレイを買っていったそうだ。料理の腕もなかなかとのこと。荒井さん、今度またゆっくり来てくださいね。
若年寄タマゲン ○…3期生だった高校生のタマゲンこと田巻源太は、今回はシナリオ・ワークショップを受講。最初の課題をこなしたが、講師以外だれも彼の課題を読むことはできなかった。字が異様に薄くコピーでは解読不可能なためだ。
ナシモトタオ氏から早速そのことを注意され、あわてて当日提出の課題を書き直すタマゲン。ふっ、17歳という若さが出たか? さて、荒井晴彦氏の講評は―。「本当に高校生なの? ほー」と意外な感想が出た。「この『安心感を求めるためにセックスしたくない』ってセリフ、わかるなあ。自分が言われたんでしょ」。スタッフ間には「源太、おまえはなぜそこまでリアルなセリフが書ける!」と衝撃が走った。
彼は3期では、倦怠期の夫婦の微妙な心のすれ違いの作品を16歳にして監督。今回もいきなり若年寄ぶりを示したのであった。さて、リアルなセリフははたしてタマゲンの体験なのでしょうか。
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